TMS(経頭蓋磁気刺激)
治療について
反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)は、変化する磁場を使用して電磁誘導によって脳の小さな標的領域を磁気で刺激する、非侵襲的な治療方法です。
現在、うつ病や強迫性障害へのTMS治療がFDA(アメリカ食品医薬品局)で認可されており、日本でも新しい治療法として注目されています。
rTMS治療の最大の特徴は、治療抵抗性のうつ病の方に向いているという点です。
うつ病治療の柱とされている薬物療法においてでも、約30%の患者様にしか効果が無いというエビデンスがあります。このような治療抵抗性の患者様に対して行う新しい治療法として、rTMS治療が注目されています。
うつ病へのTMS治療効果
おおむね抗うつ薬による治療効果と同等と考えられますが、TMS療法の治療効果には個人差があります。
rTMS、抗うつ薬、電気けいれん療法(mECT)の有用性については、患者様により背景も状況も様々なため単純な比較は困難ですが、統計学を用いて各有用性を数値化した研究報告があります。
報告によると、rTMSの効果量は0.55、抗うつ薬は0.33、ECTは0.91(図Aを参照)。数値が高い方が効果があることを示しています。この数値は実際の臨床現場と照らし合わせても、納得できる結果であると言えます。
他にも、rTMSの抗うつ効果については、エビデンスレベルの高いとされるランダム化二重盲検比較試験において、約6週間の治療期間によって、既存の抗うつ薬に反応しないうつ病患者様の15〜20%が寛解に至ることが分かっています。

以上のように、抗うつ薬によって十分な効果が得られない患者様の1〜2割が、安全性の高いTMS療法によって抗うつ薬と同等の治療効果を示しています。
また、抗うつ薬による副作用や、他の疾患の治療薬との飲み合わせの問題、身体疾患のために抗うつ薬を内服することが難しい方にとっても、有効な治療選択肢の一つと考えられます。
TMS治療が有効な患者様の特徴
TMS療法の治療効果には個人差がありますが、特に治療効果が現れやすいと考えられる患者様は次の通りです。
- 不安障害の併発がない
- うつ病の罹患期間が短い
- 抗うつ薬を複数服用していない
- 若年者
rTMSは治療抵抗性のうつ病に効果的ですが、実際の臨床現場でそのまま応用することは難しいと考えられています。rTMSの適応は、治療抵抗性が高ければ高いほど効く、という単純なものではないためです。
rTMSの臨床研究では、薬物療法に反応しない薬物抵抗性うつ病患者様が対象になっていることがほとんどですが、このような患者様の場合でも、抗うつ薬を複数飲んでいる患者様ほど、rTMSの効果が期待できないという結果が出ています。
また、うつ病の罹患期間についても、短い方がよりrTMSの効果が現れやすく、長ければ長いほど効きにくいということが分かっています。
その他、うつ病に不安障害を併発している患者様もrTMS治療の効果が低いこと、若い患者様より高齢の患者様では効果が低いことも分かっています。
更に、rTMSとECTの有用性を比較する研究において、幻覚症状や妄想などの精神病症状を伴ううつ病では、rTMSよりもECTの効果がはるかに高かったのですが、非精神病性うつ病では、rTMSとECTの効果がほぼ同等という研究結果が報告されています。
rTMSの良い適応
- 中等症以上のうつ
- 既存の薬物療法に十分に反応しない
※電気けいれん療法が推奨される場合を除く
再発率について
再発率に関するデータは十分にありませんが、TMS療法が有効であった患者様の6〜12ヶ月における再発率は、1〜3割と推定されています。
TMSが奏功して後に再発した場合には、再度TMSを実施することもあります。
治療頻度について
週5回 × 4〜6週間、約20〜30分/回の治療が、現在うつ病に対して有効性が高く最も推奨されている治療頻度です。
TMS療法の治療効果には個人差がありますが、推奨治療よりも少ない頻度で行う場合には、十分な治療効果が生じるかは不確実です。
通院頻度については、診察時に医師にご相談ください。
再発について
報告では、少なくとも実施後1か月では治療レベルを維持していましたが、そのままの治療レベルを維持する可能性もあれば、症状が再燃する可能性もあります。
TMS治療によって症状が30%以上改善した状態が1か月以上継続した場合は、再度TMS治療を行うことが検討されます。
薬物療法によって十分な効果が得られない患者様が、安全性の高いTMS療法によって治療効果を示す可能性はあります。しかし、誰もが恩恵を受けるような万能な治療ではないため、事前にご理解いただいた上で、実施をご検討下さい。
TMSを受けられない場合
について
絶対禁忌と相対禁忌についても、事前に確認する必要性があります。
絶対禁忌
(原則として、TMS療法が実施できません)
刺激部位に近接する金属(人工内耳、磁性体クリップ、深部脳刺激・迷走神経刺激などの刺激装置)、心臓ペースメーカーを有する方。
相対禁忌
(一般病院・総合病院では実施できる場合がありますが、当院では実施できません)
刺激部位に近接しない金属(体内埋設型の投薬ポンプなど)、頭蓋内のチタン製品、あるいは磁力装着する義歯・インプラントを有する方。
てんかん・けいれん発作の既往、けいれん発作のリスクのある頭蓋内病変、けいれん発作の閾値を低下させる薬物(三環系抗うつ薬、マプロチリン、テオフィリン、メチルフェニデート、ケタミン、クロザピン、ゾテピンなど)の服用、アルコール・カフェイン・覚せい剤の乱用・離脱時、妊娠中、重篤な身体疾患を合併する場合など。
以下の方はお受けいただくことが出来ません
【 TMS療法適応外 】
- 18歳未満の若年者 (18歳以上20歳未満は保護者の方の同意が必要です)
- 精神病症状をともなう重症エピソード、切迫した希死念慮や緊張病症状など、電気けいれん療法が推奨される症状を示す場合。
- 精神作用物質あるいは医薬品使用による残遺性感情障害を示す場合。
- 治療上の効果よりも副作用が大きいと主治医が判断する場合 (以下は報告されている副作用)

ADHDやASDへのTMS治療
ADHDやASDに対するTMS治療は、効果が得られるというエビデンスレベルは低く、十分な効果が期待できるとは証明されていないことが研究総括されています。そのため、当院では実施を見合わせています。
これらの疾患に対しては、まずは確定診断を行い状態を明確にしたうえで、生活上のアドバイス、心理教育、薬物治療や環境調整などの標準治療を行っています。
料金について
回数 | 料金 |
1回 (単発) | 6,000円 |
20回 | 100,000円 (1回あたり5,000円) |
30回 | 135,000円 (1回あたり4,500円) |